■どのように生み出されるか
クリスタルアートの林氏のお話ではデザインなどはパターンがあるわけではなく、塗りを依頼される方との対話の中で大まかな方向を決めた方が良い物ができるそうです。
クリスタルアートさんには過去の作品の写真や様々なサンプルが展示されていますが、一つとして同じ物はありません。
・クリスタルアートホームページ
http://member.nifty.ne.jp/cristal/林氏曰く、「これと同じ物作って下さい」というのは面白く無い、毎回違ったイメージを具現化したいとの事なので直接クリスタルアートを訪問して話し合うのが一番良いとのことです。
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ユーザーが遠隔地に住んでいて直接クリスタルアートさんを訪問できない場合はなかなか打ち合わせが難しく、メールで「これと同じように...」と具体的なイメージまで指定されると、良い物ができないそうです。
もし直接訪問できない場合は、洋風、和風、ベースとなる色合い程度に留めてあとは林氏に「お任せ」で描いて頂いた方が良いでしょう。(電話でお話して描いてもらうと更に良い物となります)
たとえば今回のザウポケでは「女性が使っている」という点と「日本の風景」「春」というようなイメージを基調として林氏にお任せして描いて頂きました。
京都の山並みと空(JR京都駅より)
注:林氏によれば「クリスタルアートにきていただいて目の前で作業する」のが一番良い方法なのですが、ザウルスなどの場合は「蓋だけ」をやりとりする事もできるため、メール等での打ち合わせも可能だそうです。
ノートPCなどの場合は「蓋だけ」ができないし、本体丸ごとを宅配便等でやりとりするのは難しいだろうとのことです。
■描く前の下準備
林氏の考え方の基本に「下地を活かす」というものがあります。
例えばザウルスなら下地となる蓋のメタリック感を活かすことと、ZAURUS POCKETというロゴを残すことを考えた構図と色遣いで描く事になります。
■顔料の特性を活かす
巷にある携帯電話などへのアートでは「エアブラシ」による物が多く、またその時に使われる「塗料」は化学塗料を使う場合が大半です。
クリスタルアート・林氏の場合は描く際に必要に応じてエアブラシも使いますが、ほとんどの部分は手描きとなります。
また、使っているのは「顔料」でその素材は貝殻をすりつぶしたもの(胡粉)や岩絵の具といった物です。
これらは京友禅で使われている物がベースとなっており、ザウルスなどに塗りやすくするために林氏が研究して実現したものだそうです。
顔料 |
顔料と化学塗料との違いは化学塗料が塗膜として対象物の表面を覆い尽くし下地の質感他が失われるのに対し、粒子状の顔料は微妙に下地が透けて見えるためザウルスのようにメタリックベースな素材の場合はその素材が活かした構図で描くことができます。
顔料の上に顔料を重ねた場合も微妙に下の色を透かすことができるため、後述する特殊樹脂の効果と相まって奥行きのある作品に仕上がります。
■下地作り
下地といっても塗装における下塗りと違い、手描きでは表現が難しい空の透明感や山の麓のもやがかかった様子などをエアブラシで吹いて行きます。
エアブラシ作業もシンナー系溶剤を使っていないため目の前で作業されていてもクラクラすることはありません(^^;
手描きする前に空や山の麓などをエアブラシで描いていきます
■複数の色で同時に描く
林氏の描き方の特徴として、一つの刷毛に複数の顔料をのせて描く技法があります。
通常は一つの色は一つの筆にのせて描くのだそうですが、林氏の独自にあみ出した技法とだそうです。
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この技法を使って描かれたものは色が微妙に混ざり、グラディエーション的な効果を発揮します。
グラディエーションと言ってもエアブラシのようなものでは無く、どっしりとした質感を持ちながら山とそこに積もった雪、花の色合いの変化が美しく表現されたものとなっています。
描かれたものを拡大したので微妙な色合いが出ていませんが、これらは一つの筆にのせた複数の色で一気に描かれています |
描くところを目の前で見ていると「ポンポン」と置いていくように見えますが、これは林氏の卓抜した技巧と言えます。
花の部分を描いているところ |
この時使う刷毛は林氏が自分で加工して作っており、満足できるものは100本作っても3本くらいしかできないそうです。
■京友禅で使われる素材を活かす
林氏の作品で最も特徴的な点は「京友禅」で使われる素材と技法を取り入れていることです。
レーザー箔:金箔より美しい輝きが特徴 |
これらは着物の彩色や帯の製作で使われているもので、その一つ一つが高度な技法で作られた物です。
螺鈿:貝の殻を薄く削り出した物を型抜きしたもの |
それらが林氏の技法と感性でハイテク機器と融合したとき、新たな生命が宿ります。
引箔釉裏金彩:(白い部分に乗っている四角い金箔のようなもの) 引箔釉裏金彩自体も超高度な技法で作られたものです。 |